電気療法は、電気を用いた幅広い療法の総称であり、電気療法が自然界の電気ではなく人工の電気として医療に用いられるようになったのは摩擦起電器や蓄電器が開発された1700年代以後です。
この電気療法は、現在、経皮的に神経もしくは筋を刺激する「神経筋電気刺激法(Neuromuscular)Electrical Stimulation:NMES」と頭皮上から脳を刺激する「非侵襲的脳刺激法」に大別でき、前者は「機能的電気刺激」と「治療的電気刺激」に大別されます。
機能電気刺激(Functional Electrical Stimulation:FES)
機能的電気刺激は、電気刺激による筋収縮を実用的な動作として用いるもので、脳卒中片麻痺患者の上下肢(歩行)機能の代償、代行機能として用いられるがその歴史は浅く、約半世紀を経過したところです。
治療的電気刺激(Therapeutic Electrical Stimulation:TES)
治療的電気刺激は、電気刺激による筋収縮促進、廃用性筋萎縮の予防、筋力増強、循環改善、創傷治癒、疼痛緩和といったように治療目的で用いられます。
その歴史は古く、古典的な時代を経て1800年代からしだいに実用化が進み、日本では末梢神経損傷による筋萎縮予防として1950年頃より用いられてきました。
経皮的電気刺激(Transcutaneous Electrical Nerve Stimulation:TENS、テンス)
テンスは、疼痛緩和を目的として用いられる経皮的電気刺激で、1965年のウォール(Patrick D. Wall)とメルザック(Ronald Melzack)による疼痛抑制に関する理論「Gate Control Theory:GCT」に基づいています。
電気的筋刺激(Electrical Muscular Stimulation:EMS)
電気刺激による筋力増強は、1977年、コーズ(Kots YM)が、モントリオールオリンピックで自国(当時のソビエト連邦)選手の筋力増強を2,500 Hzの正弦波交流を断続して発振させる方法としてコンコルディア大学で発表した後に広まっています。
高電圧パルス電流(High Voltage Pulsed Current:HVPC)
HVPCは、不快感の少ない電気刺激であり、1940年代に米国で開発された。パルス電流、高電圧、単相波を特徴とし、浮腫改善、創傷治癒促進、血行改善、筋力増強などの目的で用いられます。
微弱電流刺激(Microcurrent Electrical Stimulation:MES)
MESは、1mAを超えない微弱電流を用いて、除痛や損傷組織の治癒促進などに用いられる。1830年、マテウッチ(Carlo Matteucci)が損傷組織からの電流を証明し、1969年、ウォルコット(LE Wolcott)は、微弱電流刺激効果実証し、1984年、スタニッシュ(William Stanish)は臨床効果を示している。MESは、臨床理学療法のみならずスポーツ領域で用いられる場合も多いです。
干渉波(InterFerential Current:IFC)
異なる種類の周波数電流の干渉効果を利用する干渉波療法は、1947年にネメック(Hans Nemec)によって考案されました。
現在は、疼痛緩和のみならず、尿漏れ改善や嚥下療法にも用いられています。
非侵襲的脳刺激(Non-invasive Brain Stimulation:NIBS)
脳卒中片麻輝恵者に対する運動機能改善を目的とし、頭皮から大脳を刺激する非侵襲的脳刺激は、1985年にベイカー(Anthony Barker)らによって研究が始まっています。
現在、日本では2008年頃より集中的リハとの併用で経頭蓋磁気刺激(Transcranial Magnetic Stimulation:TMS)が行われ始めました。
また、反復経頭蓋磁気刺激(Repetitive Transcranial Magnetic Stimulation:rTMS)、頭皮から1~2mA程度の微弱な直流電気を通電する経頭蓋直流電気刺激(Transcranial Directcurrent Stimulation:tDCS)は、厚生労働省が医療機器として承認した2017年9月以降、しだいに用いられ始めています。